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【マニアック姓名判断】字性五行による運勢判断とはなにか

コラム【マニアック姓名判断】のコーナーでは、現在ではあまり用いられなくなった昔の占い手法にスポットを当て、解説をしてみたいと思います。今回は『字性五行による運勢判断について』です。

字性五行(五音)とはなにか?

さて、この字性五行による運勢判断は、現在の姓名判断の始祖とも言える熊﨑健翁氏があらわれてこれを否定するまでは、姓名判断において頻繁に用いられていた占法であります。このため、明治~大正期の古い姓名判断の本を読むと、この占法が当たり前のように載っています。以下に、実際に記載された内容を取り上げてみたいと思います。

【神秘姓名判断】(井上隆守著)について

以下は、大正2年頃に発刊された【神秘姓名判断】(井上隆守著)という本の内容の一箇所です。

一文字に五行を付するには文字の音の頭の仮名を取りて五十音に当て火性の文字なるか木性の文字なるか水性の字なるかを示したるものなり例えば「長」の仮名は「チョウ」なるを以て五十音中の「タ」行の「チ」に当を以て火性の字となり又た「保」の仮名は「ホウ」なるを 以て「ハ」行の「ホ」に当たるを以て水性の文字となる又「義」の仮名は「キ」なるを以て「カキクケコ」の木性の文字となりその他皆斯の如く五行を付すべし(後略)

とあります。つまり一つ一つの文字に五行を当てろというのですが、これは姓名の読み下しに対して該当の五行を当てるのではなく、その文字の音読み(漢音)に対して適合する五行を当てろということなのです。そのため、例えば徳川家康であれば『徳(火)川(金)家(木)康(木)』となるわけであり、実際に【神秘姓名判断】にもこのように五行が付されています。

つまり、『徳(火)川(金)家(木)康(木)』というのは、『[トク(火)][セン(金)][カ(木)][コウ](木)』というわけなのです。またお気づきのように、付された五行は文字がもつ全ての音に対するものではなく、頭の仮名(音)のみを取り、それを五行に変換したものとなっています。そして、その五行の並びに対して吉凶判断をするのが『字性五行による運勢判断』ということになります。

この『字性五行による運勢判断』は、上記の井上隆守さんだけではなく、他の様々な姓名判断家の著書にも出てきますので、その当時において割と一般的だったと考えられます。

音に対する五行の割り当て方

また音に対する五行の割り当て方につきましては、これも昔から決まっていまして、以下のようになっています(【神秘姓名判断】にも同じ内容が記載されています)。

アイウエオ 土性
カキクケコ 木性
サシスセソ 金性
タチツテト 火性
ナニヌネノ 火性
ハヒフヘホ 水性
マミムメモ 水性
ヤユヨ 土性
ラリルレロ 火性
ワヲ 土性

ちなみに『ガ』など濁音ではそれぞれの五行に土性が加わると上記の書では言っておりますが、これについては流派によって違いがあるようです。

字性五行(五音)による運勢判断

そうして姓名の文字から五行を導き出し、これを並べることにより、たとえば『青山昂史』であれば『青[セイ・金]山[サン・金]昂[コウ・木]史[シ・金]』となるため、『金金木金』として占うというわけです。

五行配置による吉凶について、たとえば先ほど紹介した『【神秘姓名判断】(井上隆守著)』による内容を一部紹介致します。

姓名に付したる火水木金土の配置組合に依り性質気質の善悪を鑑定するには左の例に照らして看るべし

金金金火 大吉なるも不和の象

火火火金 吉凶あるも大吉

金金金水 大大大才子

火火火水 大豪気外貌柔和

水水水火 大才子大知謀

木木木火 大勇気剛戻

このようにありますが、一見すると五行の相生・比和・相剋関係によって吉凶を決めているのかと思いきや、特にそういうことではないようです(ただ、やはり相剋するよりは相生のほうが良いと考えているらしく、巻末には火性と相性の良い文字として木・土性の文字が紹介されています)。といいますか、そもそも本書には吉凶を判断する基盤となる説明が全くなく、以上のようにただ性質傾向と吉凶の傾向を記しているに過ぎません。

また、その説明は『吉凶あるも大吉』など、吉とも凶ともどっちとも取れるような曖昧で表現がされているものが多く、ちょっと困惑してしまいます。これは昔からある『陰陽配置』においてもそうなのですが、問題は『なぜそれが吉なのか?凶なのか?』といった理論的な根拠がないままに話が進められていることです。

おそらくこれについては、占い師である当人達もよく分かっていなかったのでしょう。上記の一例でも分かりますが、判断結果の一貫性のなさと曖昧さがそれを物語っています。

字性五行占いに対する批判

そしてそのような『字性五行占い』の根拠の薄弱さや曖昧さを突いたのが、後に出てきた熊﨑健翁氏です。熊﨑氏は、まず「なぜゆえに読み下しではなくわざわざ文字の音読みから五行を抽出する必要があるのか?」といった批判を展開し、その後に「そもそも名前はそれぞれの読み下しでもって呼ぶものなのだから、読み下しの音を五行に変換するべきだろう」といった改善策を提案したのです。

つまり私であれば『青[セイ・金]山[サン・金]昂[コウ・木]史[シ・金]』ではなく、せめて『青[アオ・土]山[ヤマ・土]昂[タカ・火]史[シ・金]』にするべきなのではないのかといったことです。実際に、大正~昭和初期頃の姓名判断の本を読みますと、このように姓名の読み下しから五行を導き出して判断を行う姓名判断本も出ており、これはおそらく熊﨑氏の影響と言えるでしょう。

しかし、これでも「なぜ読みの頭の音のみを取るのか?」といった疑問が残ります。そこで熊﨑氏は、姓名の読み下しの音全てをそのまま五行に変換するべきだと主張し、音については『あおやまたかし』->『土土土水火木金』として判断をするべきではないかと主張しました。これについては私も全面的に賛成しており、実際に音の判断については、読み下しの音をそのまま五行に変換していますし、そのほうがよく当たると確信をしています。

なお音についてはかなり現代の姓名判断においてはないがしろにされている感じがしますが、実は性質に対して大きな影響力をもつ部分でもあるため、五格構成と同時に重視するべきだと私は考えています。性質に強く影響があるということは、やはり運勢面に対しても直接的・間接的に影響してくるためです。

字性五行判断の現在と、『陰陽配置による吉凶判断(俗に言う白黒占い)』が現在も主流であることについて

ところで現在は、こういった占い手法はほぼ見かけません。もしかしたら私が知らないだけでこの古来からの『字性五行による運勢判断』を用いている姓名判断家もいるのかもしれませんが、いたとしても極少数と考えていいでしょう。

なぜこの『字性五行による運勢判断』が廃れたのかについては、上記で説明した理由ももちろんあるとは思いますが、それと並んで『五行への変換が面倒で分かりにくい』といった理由があるのではないかと考えています。紹介した『字性五行占い』では、まず文字の読みを音読みに変換し、その後さらに音読みを五行に変換するという変な手間が生じますし、音の属性五行を知っていなければそもそも占えないため、素人には大変扱いにくいのです。

その点、同じように古来からある『陰陽配置による吉凶判断(俗に言う白黒占い)』のほうは、現在でも姓名判断において大きな地位を占めています。この文字の画数を陰陽に変換して白黒に分け、その白黒の並びによって吉凶を判断するという手法は『字性五行占い』よりも実際はさらに稚拙なのですが、これがどういうわけか現在も流行っているのです。

その理由はやはり、この『白黒占い』が誰の目で見ても分かりやすく、判断がしやすいからなのでしょう。しかし実のところ陰陽配置による吉凶判断は笑ってしまうほど評価方法が曖昧で、一缶した理論的根拠が一切ないものなのです。